日本代表は2025年10月14日に行われたキリンチャレンジカップ2025でブラジル代表と対戦し、3-2で勝利しました。この記事では歴史的なブラジル戦初勝利の試合内容について記しています。
サッカー王国ブラジルを迎え撃つ
2025年10月14日、東京スタジアムで行われたキリンチャレンジカップ2025、ブラジル代表戦は、日本のサッカー史において間違いなくターニングポイントとなる試合でした。
FIFAワールドカップで歴代最多5度の優勝を誇る“サッカー王国”ブラジル。日本代表はこれまでブラジルと13度対戦してきましたが、その戦績は2分11敗。一度も勝利を収めたことがありませんでした。直近でも6連敗中という、まさに「打倒すべき壁」として立ちはだかる相手でした。
前戦のパラグアイ戦では2-2のドローに終わった森保ジャパンですが、このブラジル戦に森保監督が選手に求めたのは、「同じ目線で思い切ってチャレンジする」姿勢。この壮大な目標を掲げた一戦で、サムライブルーは世界のサッカー界を驚かせる、歴史的な逆転勝利を飾りました。
スターティングメンバー
パラグアイ戦から中3日で迎えたブラジル戦。森保一監督は先発メンバーを4人変更し、経験者と新戦力を融合させた布陣で臨みました。
日本代表が選択したシステムは、基本となる3-4-2-1を継続。
GK
鈴木彩艶(パルマ・カルチョ/イタリア)
DF
- 渡辺剛(フェイエノールト/オランダ)
- 谷口彰悟(シント・トロイデン/ベルギー)
- 鈴木淳之介(コペンハーゲン/デンマーク)
MF
- 堂安律(フランクフルト/ドイツ)
- 鎌田大地(クリスタル・パレス/イングランド)
- 佐野海舟(マインツ/ドイツ)
- 中村敬斗(スタッド・ランス/フランス)
- 南野拓実(モナコ/フランス)
- 久保建英(レアル・ソシエダ/スペイン)
FW
上田綺世(フェイエノールト/オランダ)
控えメンバー
GK
- 早川友基(鹿島アントラーズ)
- 大迫敬介(サンフレッチェ広島)
DF
- 長友佑都(FC東京)
- 安藤智哉(アビスパ福岡)
- 橋岡大樹(スラヴィア・プラハ/チェコ)
- 瀬古歩夢(ル・アーヴル/フランス)
MF/FW
- 伊東純也(ヘンク/ベルギー)
- 相馬勇紀(FC町田ゼルビア)
- 小川航基(NEC/オランダ)
- 田中碧(リーズ/イングランド)
- 町野修斗(ボルシアMG/ドイツ)
- 斉藤光毅(クイーンズ・パーク・レンジャーズ/イングランド)
- 望月ヘンリー海輝(FC町田ゼルビア)
- 藤田譲瑠チマ(ザンクトパウリ/ドイツ)
注目は、アキレス腱の負傷から約1年ぶりに復帰した谷口彰悟選手が3バックの中央に入り、最終ラインを統率した点です。また、前戦で途中出場した鎌田大地選手が先発ボランチに入り、久保建英選手を右のインサイドハーフに起用するなど、より攻撃的なタレントを並べました。
一方のブラジルは、韓国戦から8人を入れ替えたものの、中盤にはカゼミロ選手とブルーノ・ギマランイス選手という世界屈指のタレントを配置し、ヴィニシウス・ジュニオール選手らを起点に、強力な攻撃陣で試合に臨みました。
試合の流れとポイント
前半:テンポと個人技に屈した2失点
日本は序盤、中村選手や佐野選手が積極的にゴールを狙い、久保選手からの折り返しに上田選手が詰めるなど、悪くないスタートを切りました。しかし、前半中盤以降、徐々にブラジルのテンポの良いパスワークと個の技術に押し込まれる展開となります。
前半26分、ブラジルがヴィニシウス選手、ギマランイス選手、パケタ選手らと流れるようなパスワークを披露すると、パウロ・エンリケ選手が抜け出して先制点を奪われます。さらにそのわずか6分後の32分、ルーカス・パケタ選手からの絶妙なスルーパスをガブリエウ・マルティネッリ選手が決め、ブラジルがリードを2点に広げました。
日本は5-4-1の守備ブロックを敷いたものの、ブラジルの高いプレッシャーと連動性に苦しみ、なかなか攻撃の糸口を見つけられず、0-2という絶望的なスコアで前半を終えます。森保監督は試合後、「私の伝え方が良くなかったのか、最初にプレッシャーがかからなかった」と反省点を挙げていますが、この2点差のビハインドが、後半の劇的な逆転劇の伏線となりました。
後半:怒涛の3ゴールで歴史をぬりかえる
ハーフタイム、選手たちは集中力を切らすことなく、冷静に修正点を共有しました。南野拓実選手は「まだまだこのゲームは死んでいない。1点取ったら絶対に勝負に持っていける。歴史を変えるために戦おう」とチームに強く声をかけたと言います。
そして、後半開始と同時に日本代表はまったく別のチームに変貌します。プレスの開始位置を高くし、前線からアグレッシブにボールを奪いに行く姿勢を徹底しました。
52分、ついに反撃の狼煙が上がります。堂安選手、鎌田選手、上田選手、そして南野拓実選手らが連動した高い位置からのプレッシャーでブラジルDFのボールロストを誘発。こぼれ球に反応した南野選手が右足を振り抜き、ゴールネットを揺らして1点差に詰め寄ります(1-2)。このゴールが、スタジアムの雰囲気を一気に変えました。
直後、森保監督は久保選手に代えて、スピードスターの伊東純也選手を投入。これが逆転劇への最大の采配となります。
62分、右サイドのスペースへ抜け出した伊東選手が正確なクロスを供給。これに逆サイドでノーマークとなっていた中村敬斗選手が右足ボレーで合わせ、相手DFに当たりながらもゴールへ吸い込まれ、ついに同点に追いつきます(2-2)。中村選手は「伊東選手とはランスで2年間一緒にやっていたのでボールが来ると分かっていた」と、コンビネーションの深さを語っています。
そして71分、歓喜の瞬間が訪れます。伊東選手の蹴った左コーナーキックがゴール前へ鋭く入ると、パラグアイ戦に続いて途中出場からゴールを決めた上田綺世選手がヘディングで押し込み、ついに3-2と逆転に成功しました。上田選手は「自分がマークから逸れればその段階でスペースを見つけられる」と語る通り、相手のマークを外す駆け引きと準備の成果でした。
その後も、日本は相馬勇紀選手や田中碧選手らを投入して攻勢を維持し、ブラジルの反撃をGK鈴木彩艶選手の好セーブと守備陣の粘り強い対応で凌ぎきり、3-2のスコアで歴史的な初勝利を掴み取りました。
試合内容の評価と分析
この試合の最大の評価ポイントは、単なる「初勝利」ではなく、「内容を伴った逆転勝利」である点です。特に、後半に見せた日本のパフォーマンスは、世界のトップレベルでも通用することを明確に示しました。
データサイト『Opta』によると、試合全体でのボール保持率は日本が33%とブラジルの67%を大きく下回っていますが、シュート本数では日本が15本とブラジルの8本を上回っています。
さらに驚くべきは「ゴール期待値(xG)」です。日本代表のxGは2.49に対し、ブラジル代表のxGはわずか0.61。つまり、日本代表はシュート決定率が高かっただけでなく、「ゴールに直結する決定的なチャンス」の創出において、ブラジルを4倍以上も圧倒していたことになります。記事によると、後半のある時間限定で見れば、その差はなんと9倍にまで跳ね上がっていたとのこと。これは、後半の日本の「前からハメる守備戦術」と「アタッキングサードでの精度」が、いかに機能していたかを物語っています。
ブラジル代表が国際親善試合とはいえ、2点リードから逆転負けを喫したのは、1952年のヘルシンキ・オリンピック以来、実に73年ぶりの屈辱的な敗戦です。また、ブラジルが同じ年に複数試合で3失点以上を喫したのは2014年以来11年ぶりという事実も、この勝利の重みを証明しています。
中村選手が「メチャクチャいい球がきた」と語った伊東選手のクロス、上田選手が「準備してやってきたことが形になっている」と語ったオフ・ザ・ボールの動き。これらは全て、個人の実力が着実にレベルアップしている証拠であり、森保監督が目指す「粘り強く最後まで戦い抜く」チーム像と、選手個々の高い技術と判断力が融合した結果と言えるでしょう。ワールドカップ優勝という壮大な目標へ向けて、この歴史的な勝利は大きな自信となったはずです。
監督と選手のコメント
森保一日本代表監督
「前半は厳しい戦いでしたが、選手たちが切れずに戦い続けてくれました。ハーフタイムでもみんなが建設的で、後半どう修正したらいいか、冷静にコミュニケーションを取って、コーチ陣もより明確な役割を伝えてくれました」と、チームの集中力と修正能力を称賛しました。
また、「ブラジルに勝つことはそんなに簡単なことではない。先人、先輩方がいたからこそ、自分たちの今日の結果につながったと思っています」と謙虚に述べながらも、「ここからおそらくどの対戦国も我々へのマークを厳しくしてくると思います。今日の自信とこれからの警戒心を持って、前進していかなければいけない」と、日本の新たな挑戦の始まりを力強く語っています。
DF :谷口彰悟 選手
「ブラジルに一回も勝っていなかったところで自分たちが勝つことができたのは、素直にうれしいです」と初勝利の喜びを語りつつも、「パーフェクトな試合ではなかったので、反省しながら修正しながら次へやっていきたい」と、経験豊富なDFらしい冷静な姿勢を見せています。
MF/FW: 南野拓実 選手
ハーフタイムで「歴史を変えるために戦おう」とチームを鼓舞した南野選手は、「僕らとしては親善試合じゃない。ここで勝てたら自信につながると思った」と、この試合への強い思い入れを明かしています。自身のゴールについても「(後半の)ゴールの場面もうまく相手のミスをつけてよかった」と、プレス戦術が機能した結果だと分析しました。
MF/FW : 堂安律 選手
「日本サッカーにとって、ブラジルという国を倒せたことは間違いなく大きな一歩になったと思いますし、1つ歴史を作った素晴らしい日になったと思います」と歴史的意義を強調しつつも、「本大会で勝たないといけない。本大会でやってこそ本物」と、浮かれることなく次の目標を見据えています。
MF/FW :上田綺世 選手
「(CKの得点場面で)クロス上がってくる前に1歩下がって、他の選手にマークについてもらって自分はフリーで動けるように、駆け引きというか、自分の中での準備はしていました」と、ゴールの裏にあった緻密な準備を明かしています。「ちゃんと実力としてレベルアップできているという感覚もあります」という言葉に、ストライカーとしての頼もしさが滲んでいます。
カルロ・アンチェロッティ ブラジル代表監督
敗れたブラジルの名将は、「負けは誰も受け入れることはできないですし、残念で非常に不満に思っています」と率直な感想を述べつつ、「日本は非常に素晴らしい、強いチームで、特に後半の前線でのプレッシャーで我々はビルドアップが難しかった。今日は大きな学びになりました」と、日本の進化と後半の戦術を高く評価しました。
この試合は日本代表の歴史の中でも最高の試合の一つでした。この勝利を自信に変え、日本代表がさらに強くなることが楽しみです!
(JFATVから引用)
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